小編2題「胸がきゅんとする話」「もう一回……の想い」

2020.06.11 / エクセレント岡崎

胸がきゅんとする話

口数の少ないAさんは、おうちから出たがらず、それでもどうにかこうにか週に2回だけ当事業所に入浴のためだけに気が進まぬながら来られていました。

玄関先で入浴の順番を待ち、入浴を済ませたらフロアでくつろがれることもなく、すぐに帰宅されました。

ある時、骨折をして入院されました。2か月ほど後、退院のための多職種会議が病院で催されました。

赴任前からご利用されていたA子さんと私は交流がほとんどありませんでした。入浴だけして帰る方、ケアを行うのは職員という関係に甘んじていたのです。

週2回、玄関先でかわす「こんにちは、ごゆっくり。」「さようなら、お気をつけて。」の繰り返しでした。返答はあるものの小柄で下向き加減の方ですから、私の顔すら意識されていないだろうと思っていました。

車で片道小一時間ほどの病院の会議室で待機しておりますと、看護師さんに伴われてAさんが部屋に入ってこられました。

「こんにちは、お久しぶりです、お加減いかがですか。」と私が問いかけると、
Aさんは、満面の笑みで、
「わざわざ遠いところ来てくれてんやなあ。ありがとうえ。」
と私に返し、そして、私の耳元で、
「ここな、ごはん、まずいわー。食べられへんえ。」
と今まで見たことのない、可愛いいたずらっ子のように、まあるい笑顔で囁かれました。

退院後、通い(デイサービス)のご利用が始まりました。

再び、入浴の為だけに極めて短い時間を過ごされるためにみえるのだろうなと思っていました。
ところがどうしたことでしょう。
入院前は、玄関から実測5メートル40センチにあるソファで言葉少なに入浴の順番を待ち、後は、一息つく間もほとんどなく帰ってしまわれていたAさんが、朝早くから来所され(避けられないご家庭の事情もあったのですが)、頑として足を踏み入れられることのなかったリビングフロアで皆さんと共に過ごされ、得意な塗り絵や紙細工を丹念に仕上げられまた。それら数々の作品はあまりにも精緻な出来栄えなので、作品を壁一面に貼り、個展も開かせていただきました。

勿論、入浴の後も、フロアで過ごされ、職員とも朗らかに会話をされるようになりました。

Aさんがフロアで過ごされることだけでも驚きなのに何かとご自分の意志でされるようになったことに、ただただ感激と嬉しい思いでいっぱいでした。

そして、何よりも以前と変わったことは、おいでになった時と、お帰りになるときには、必ず私を見つけて丁寧なごあいさつをしてくださるようになったことです。あの時、病院の会議室で見せてくださった、

かわいいいたずらっ子のようにまあるい笑顔で。

もう一回……の想い

いつか必ずくるでしょう
お別れのときがくるでしょう
いつも思うのです
お別れの後
もう一回話しておけばよかった
もう一回触れておけばよかった
もう一回においをかいでおけばよかった

だから、あなたをみつけたら
いつも近寄り話をし、いつも手をさしのべて
体温計もはさむけど、おでこに軽く触れるのです
この幸せができればずっと
続いてほしいそう思うのだけれど
いつか必ずやってくる

その日が後悔の日でないように
今この一瞬を宝の海にするのです
一瞬のつながりが今となり
今の喜びが元気を育てる
元気が笑顔の種となり

幸せの花が咲くのでしょう
幸せの花が咲くのでしょう

こういう思いをいつも職員に伝えています

エクセレント岡崎
管理者 本多政彦



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