看取りの作法

2025.12.09 / スイート上桂

看取りはいつ始まるの?
それは、初めてお会いした時に始まる。
我々は絶えずご本人と、ご家族との間に信頼関係を築き上げ、
本当にその時が来た時には、
全ての遠慮を排してかかわりあう。
だから、はじめましてとお会いした瞬間に始まる。

母は、(激動の時代を生き抜き、苦労の連続だった、だから)
エクセレントさんでの生活が一番幸せだったと思います。
ご家族の言葉に感謝の気持ちと共に胸が詰まる。
瞬時も忘れない、いつも仕事の原動力。

看取りが始まると、基本的に医療従事者は一歩引く、
介護職がその方の全てに寄り添う。

必ずすること
お部屋の中をピカピカにする、塵ひとつ見逃さない。
空間を遮断しない。
音を遮断しない。
照明に差をつけない。
生活空間を共有する。
いつも気にかけている。
計測機器に頼らない。
語りかける。
スキンシップを行う。
仲間が見舞う。
ご家族が24時間いつ来られてもいいし、泊っていただいてもよい。
(11連泊された娘さんもおられた)
結局、普段のかかわりと変わりない。

他の入居者さんがお見舞いに居室を訪れる。
そこでは、にぎにぎしく歌ったり
会話したり、手を握り合ったり、
体をさすったり、そして泣き笑い。

元気だしや。
ちゃんと食べなあかんで。
(フロアに出てくることを)待ってるで。
もう叶わぬことかもしれないが、その言葉をご本人は、薄目を開けて聴いている。
ご家族と職員は、暖かみあふれた言葉のあるかかわりをじっと見ている。
いっぱい話しかけ、体をそこら中さすり、最後にもう一度、はよ元気になりや、と居室の入り口で声をかけ、気丈な面持ちで居室を後にして、トイレに駆け込んだHさん。
トイレの中で号泣していた。もらい泣き。

五感を存分に働かせて、体調の推移を感じ取る。
いつもとどう違うか、必死に感じる。
普段から接していないと、今の状態がいかなるものかわからない。

すべてが終わると、医師に伝える。
先生が来なくなってから今日までどんなことをしたか。
どんなかかわりをしたか、
誰が関わったか。
それらを伝える。

Y先生から教わったこと。
枕もとで孫がテレビゲームの音をガチャガチャさせていてもいいのよ。
そんな生活音を絶やさないでね。

多職種が語り合った足掛け2年に及ぶ看取り勉強会にて、心に残る言葉。
看取りの場にある自分はどういう存在でありたいかの問いかけに、
猫のような存在かなあ、猫は何にもしてくれないけれど、いてくれるだけでうれしい、抱きしめたら暖かい。
ゴミ箱かなあ、普段は目立たず部屋の隅っこにあるだけなんだけれど、絶対に必要なもの。
名言だなと思う。そして一所懸命考えてみることが行動の礎になる。

悲しみの淵にあるご家族の想いを、Y先生は、ただひたすら聞いていた、
同調もせず、否定もせず、ただ、聴いていた。その二人の姿がいつも目の前にある。

職員は、他の入居者を誘い、居室へお見舞いをする。
そして時には、みんなで歌う。部屋がぎゅうぎゅうにもなる。ご家族こそ一緒に。
みんなで歌いませんかとお誘いする。泣き笑いの即興音楽会がにわかに始まる。
Y先生、今、こんなことしてるんですよ、とSNSで報告した。
数分後、Y先生が私に電話してきた。
あなた、すごいことしてるね。何がすごいって、素晴らしいって、他の入居者さんも、巻き込んでいること。その入居者さんたちがきっとこう思うでしょう。
私が逝くときもきっとこんなに楽しく送ってくれるときっと思う。
そこが素晴らしいんだよと。

グループホーム・小規模多機能型居宅介護
スイート上桂
管理者 本多 政彦



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